最近、注目されている生前贈与ですが気をつけないと、あとから損をする可能性もあります。
今回は事例に基づいて説明したいと思います。
(例)太郎さん一家の事件
太郎さんは、遺言がなかったことから花子・一郎・陽子の3人で遺産分割協議を行い相続開始後10ヶ月以内に無事に相続税の申告書を提出し納税も済ませました。
その後、税務署から税務調査の電話がきて尋ねて、その後太郎の実家にきて子の一郎が対応しました。
税務署:「今日は相続税の調査でお伺いしました。4時頃までかかかるかもしれませんがよろしくお願いします」
一 郎:「わかりました。宜しくお願いします」
税務署:「太郎さんの預金通帳を見せていただけませんか?」
一 郎:「はい。これだけです」と言って通帳を提示しました。
税務署:「○○銀行の○○支店に孫である誠君名義の2000万円の預金がありますよね。その印鑑と通帳は誰が管理していたんですか?」
一 郎:「亡くなった父の太郎ですけど、それがどうかしたんですか?」
税務署:「それだと2000万円は名義預金と言って遺産に含まれますよ」
一 郎:「何を言っているんですか。父の太郎は毎年200万円を孫の誠に贈与していて、贈与税も毎年9万円払っているんですよ」
税務署:「誠君はこの預金の存在を知っていますか?」
一 郎:「知らないはずです」
税務署:「贈与税の納税資金は誰が出していたんですか?」
一 郎:「父の太郎です」
税務署:「それではやはり太郎さんの預金ですね。2000万円を加算した相続税の修正申告書を出すことをおすすめします」
一 郎:「贈与税の申告と納税を10年間もしているんですよ。国は90万円の贈与税を受取っているんですよ。贈与は成立しているでしょう!」
税務署:「贈与税を納税していることと、贈与が成立しているかどうかは別の問題です」
一 郎:「すでに納税した贈与税はどうなるんですか?」
税務署:「確認してみますが、通常は時効が到来していない部分は還付しますが、時効が完成した分は還付できません」
一 郎:「そんなばかな・・・」
今回の注意点は、贈与税を払っていれば名義預金であっても贈与が成立していると解釈しているところです。
贈与はあくまでも渡す側の意思表示と受取る側の受託によって効力が生じることとなっています。
となると、
①孫の誠はその贈与の事実を知らない
②通帳と印鑑は父の太郎が管理していた
ということで、受取る側が受託していません。これは『名義預金』といって、自分の財産を別の名義の人に動かしただけの状況となりますので、太郎さんの財産ということになります。
ですので今回の解決策としては、
①太郎と孫での贈与契約書を作成し、自署・押印を行う
②通帳と印鑑を孫の誠が管理する
③贈与税はもらった誠が払う
ことです。
では下線部分の払った贈与税はどうなるのでしょうか?すでに10年間で払った90万円の内、どうやら6年分の54万円は戻ってきますが、4年分の36万円は戻ってきそうにありません。
この手続きを「更正の請求」といいます。「更正の請求」とは贈与税の申告をした後に、申告税額が多すぎたことに気づいた場合に、請求をして納めすぎた税金を取り戻すことができます。
ただし贈与税の「更正の請求」は6年までが限度になっています。
ですから、せっかく贈与税を払っても戻ってこないことがあり損をする可能性があるということです。
ご自身の贈与がきちんと贈与となっているかを改めて確認してみてください。